うだるような暑さが絶頂に達するとき、それは夏の終わりのときでもあります。
7月から続く長雨にまぎれて、アジサイたちは8月の中ごろまで咲き続けていました。
上旬にはヤマユリやノウゼンカズラ、ギボウシ、ハスなど夏の花々が目立ちますが、
やがてお彼岸に咲くヒガンバナが二期倶楽部周辺で咲き始め、
少しずつ気付かれないように、秋の装いへと移り変わっていきました。
[ノウゼンカズラ]
[ウバユリ]
[ハス]
やがて、ツリガネニンジンやホトトギス、アザミ、野菊、ススキなどが咲きはじめ、
いつの間にか空が高くなっていることに気付きます。
[ノハラアザミ]
[野菊]
[ススキ]
朝晩は過ごしやすい陽気になってきています。
植物たちにとっても、夏はたくさんの栄養をためる絶好の機会でした。
ためこんだ栄養素は、毎年やってくる冬を乗り越える分を残しておけば、
今年はもう成長をする必要がないので、涼しくなった秋に花を咲かせることができます。
那須では11月初旬には、紅葉になり葉が落ちはじめています。
植物たちにとって今年とは、もうあと僅かしか残っていません。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
現にこの植物自体がその証拠になります。
このゲンノショウコは漢方薬としては使用されることはありませんが、
おなかを壊したときに煎じて飲むとよく効きます。しかも副作用がないことから
古くからドクダミやセンブリなど民間薬の代表的存在でした。
江戸時代以前、高価な漢方で処方される薬としては見向きもされませんが、
雑草のようにそこら中に生息するこの植物には確かな薬効がある、
そのような強い意志が感じられる名前です。
他にも「たちまち草」、「医者いらず」というありがたい名があります。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
モミジのような葉っぱを地面近くに出していて、
長く伸びたその先に白い花を控えめにつけています。
写真はひとつの花を接写しているように見えますが、
実際は3つの花が集まって、ひとつの花のように見せています。
少しでも花を目立たせようと努力をしているようですが、
そもそも小さくて地味な植物のため、気付かずに通り過ぎて
しまわれることが多いかわいそうな花のひとつです。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
おめでたい金色の水引に例えてキンミズヒキ。
ただ、もっさりと咲き連なっている花を見ていると、ちょっと水引に
見立てるには無理があるかなと思ってしまいます。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
山菜で有名な「たらの芽」も、摘まれることなく順調に育てば花が咲きます。
タラノキは那須でも草むらや渓流沿いなど、明るい場所のあちこちに生えています。
成長はとても早く、条件が良ければあっという間に人の背丈を越してしまいますが、
あまり太くはなれないようで、ある程度のところまで成長すると静かに枯れてしまいます。
明るい新天地に特化したその生活様式のために、生い茂った森の中での成長競争には
すぐ負けてしまいます。しかし伐採や開発、山崩れなどによって空間ができ、太陽の光が
地面まで届くようになったら、いち早く芽を出せるように虎視眈々と種の状態で待っています。
他の森の木々との成長競争をするよりも、それらの木々が大きく成長し森を形成する前の間に
生涯を終わらせる戦略を持った樹木のひとつです。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
透き通るような白い小さな花が、小川沿いにたくさん咲いていました。
こちらはソバの花に似ているので、ミゾソバと呼ばれています。
葉っぱの形も特徴的で、正面から見た牛の顔に似ているので
ウシノヒタイとも呼ばれています。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
秋の七草のひとつ、クズの花が咲いています。
クズの根には多量のデンプンを含んでいて、いわゆる「葛粉」を採ることができます。また、漢方薬の
ひとつである葛根湯にも利用されます。クズの蔓は縄代わりに、茎の繊維からは葛布を織ることも出来、
更には成長が非常に旺盛なので、牛や山羊などの牧草としても役に立ちます。
クズはマメ科の植物で、春から秋まで成長を続けるため、荒地などでよく育ちます。
そのため、緑化のためにと中国やアメリカへ輸出され、盛んに植えられました。
よく育つクズは、特にアメリカでは気候が合うためか際限なく繁茂していき、緑化には成功はしたものの
今度は景色が変わってしまうほどクズが生えすぎて困ってしまいます。
今では有害植物として厄介視されてしまっています。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
滋養強壮に効果がある朝鮮人参は古くから人々に珍重されている有名な
生薬のひとつです。その栽培はとても難しく、また野生のものを探すのも困難なため、
一般庶民には手の届かない高価な生薬のひとつでした。
このツルニンジンの根っこは朝鮮人参に似ているため、
その偽者として出回ったこともあります。
当然、朝鮮人参に形は似ていても、同じ薬効があるわけではありません。
今も昔も人々の弱みに付け入った話は絶えません。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
風にそよぐ、その花はどこか涼しげで、早くも今年の夏が
終わりはじめたことを教えてくれています。
名前の由来は、花はお寺の鐘に見立ててツリガネ、
根っこがまるで人参のように淡い黄色なので、
ツリガネニンジンと呼ばれています。
人参のような根っこは生薬として、咳止めや去痰などに使用されていて、
その場合は[沙参](しゃじん)という名前になります。
また、若葉の頃はおいしい山菜として人気があり、
山菜の場合は「ととき」と呼ばれています。
用途によって様々な名を持つのは、
古くから身近な存在の植物だったからでしょう。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
8月も後半に入ると、いくらか暑さも和らぎ、二期の森では
ツルリンドウの花がひっそりと咲き始めます。
花はとても控えめですが、秋になるとよく目立つ真っ赤な実を結びます。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
赤と白が入った花を紐状にたくさん付けるので、
水引に例えてそのままミズヒキと呼ばれています。
このミズヒキの葉っぱには、顔みたいな褐色の模様が
よく付いています。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
小さな花が森の中のあちこちで咲き始めました。
ホトトギスの花の形状も非常に独創的で、雄しべも雌しべも大胆な程に飛び出しています。
世の中にはたくさんの種類の花がありますが、それらを産み出す
自然界の造形の多様性については、ただ畏敬の念を抱くばかりです。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
花はかなり地味ですが、若葉のときは山菜として食べられます。
名前の由来は、モミジのような葉っぱで、芽生えの頃は傘のようなのでモミジガサ。
東北方面では「しどけ」と呼ばれていて、関西方面では日陰に生えるので「きのした」、
さらに「きのした」といえば当然、「とうきち」という名でも呼ばれることもあります。
独特の香りと、特有の苦味は好みが分かれますが、群雄割拠の山菜の中でも
北海道南部からほぼ日本全国と幅広い勢力を保持しています。
やがて「かんぱく」と呼ばれ、海外への進出を企ててしまうかもしれませんね。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
渓流沿いに、しんみりと花を広げているのはカノツメソウです。
「セリ」によく似ているので、別名「ダケゼリ」とも呼ばれています。
夏の暑さもピークを迎えた二期の森、過ぎ行く季節を締めくくる
地味な線香花火によく似た、小さな花が咲いています。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
真夏にはヌルデの花が咲きます。
ヌルデにはヌルデシロアブラムシが寄生し、大きな虫こぶを作ることがあります。この虫こぶは
「五倍子(ごばいし)」、または「附子(ふし)」と呼ばれ、タンニンを非常に多く含んでいるため、
古くからお歯黒の材料のひとつとして利用されていました。
虫こぶとは実のような外見をしたものが多いですが、実ではなく昆虫の産卵によって
植物の組織が異常発達したものを指します。様々な植物に対して、様々な昆虫が虫こぶを
作りますので、たくさんの種類の虫こぶが自然の中には存在しています。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
悪い草花です。
繁殖力が非常に強く、一度繁茂してしまうと草を刈っても、
根っこから何度引き抜いても、次から次へと生えてきます。
更には茎や葉裏などに鋭い棘をたくさん備えているので痛くてたまりません。
しばらくするとプチトマトのような赤い実をつけますが、
残念ながらその実も有毒で食べることができません。
何から何まで厄介な草花です。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
真っ赤な花が突然現れるのは、ヒガンバナです。
秋の彼岸頃に咲くのが名前の由来で、那須ではお盆の頃が見ごろです。
[曼珠沙華]と呼ばれることもありますが、その独特の様相からか[幽霊花]、[地獄花]、[死人花]、
[狐花]など不吉な別名もたくさん付けられています。
また、有毒のためお墓の周りに植えることが多いのも、名前に影響しているようです。
花言葉には「悲しい思い出」、「あきらめ」などがあります。
うしろ向きなイメージの強い花ですが、その真紅に染まる花は
人々に様々なことを連想させてしまうほど美しいのでしょう。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
酷い名前を付けられたものです。
しかし、夏場にその香りを嗅げば、思わず静かに頷いてしまいます。
花自体は可愛らしいものをたくさんつけるので、この花をお灸した後に見立てて
「ヤイト(灸)バナ」と呼ぶ動きがあります。また、秋には小さな実をたくさんつけるので
(なぜか香りもなくなります)、その実から「サオトメバナ」とも呼ばれることがありますが、
残念ながら万葉の時代から「くそかずら」と呼ばれているので
新しい名前を浸透させるのは難しいようです。
『ざうけふに 延ひおほとれる 屎葛 絶ゆることなく 宮仕へせむ』 高宮王 (万葉集より)
※意味:しつこく絡みつくヘクソカズラのように、宮仕えを続けていこう。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
真夏に咲く清楚な花は美しく、やさしい香りがします。
しかし葉っぱを揉んでみると独特の臭みが漂うため、そのまま[臭木]と呼ばれています。
どうやら、良い香りよりも臭さの方が印象に残ってしまうようです。
尚、日本全国に分布するクサギは、その若葉は山菜として食べることができ、
秋に結ぶ実は青色の染料になるなど、臭い以外でも立派に活躍をしています。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
まるで岩場から直接葉が生えているように見えるのは、イワタバコです。
葉っぱの形がタバコの葉に似ているので、そのまま岩煙草と呼ばれています。
このイワタバコの仲間はほとんどが熱帯地域に生息していて、
日本では本種のみが涼しい気候のところにも分布しています。
夏の暑い頃に花を咲かせるのは、遠く離れた熱帯に生息する仲間たちと
少しでも時期を同じくするためなのでしょうか。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
地味であるのに華やかなセリの花が咲いています。
セリは春の七草に数えられ、古くから野菜のひとつとして食用にされてきました。
茹でて鍋物やおひたしにするのが一般的ですが、サラダや天ぷらも捨てがたいものです。
花の時期にはかたくて食べられませんが、今度は『水芹』(すいきん)という
生薬として、食欲増進などに服用することができます。
水分をたくさん含んでいるので、よく乾かす必要があります。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
エノコログサよりも、「猫じゃらし」の方が慣れ親しんだ名前です。
飽きることなく降り続ける雨のおかげで、深々と花穂を垂れていました。
まるで無理やりに雨粒を実らされ、頭を下げさせられているみたいです。
こちらもイネ科なので、きっと何かの暗示なのでしょう。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
夏の森の中で、ひとつだけ朱に染まる花を咲かせるのはフシグロセンノウです。
節が黒ずむのでフシグロと名付けられていますが、やはりこちらも
もう少し花の美しさを強調しておきたいところです。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
明治時代にルドベキアという総称で、北米から観賞用に輸入されたオオハンゴンソウは
その高い繁殖力で自然界に大群落を形成し、日本在来種の生態系を壊してしまうために
現在では特定外来生物に指定されています。
このオオハンゴンソウは虫媒花でありながら、地下茎でも繁殖をすることができます。
そのため一度大繁殖してしまうと、いくら刈り尽くしても根絶は難しく、また繁茂しているおかげで
他の植物が生えにくくなってしまうという悪循環です。
圧倒的な資本と徹底した合理化にものを言わせて、次々に新天地を開拓していく大企業のような
恐るべき力を秘めた海外の植物のひとつで、残念ながら日本在来の植物では歯が立ちません。
何も知らない日本在来のミツバチが、オオハンゴンソウからせっせと花粉を
集めてくるのを見ていると、何とも形容しがたい気分になってしまいます。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
すっきりとしないお天気が続く、夏の二期の森。
足元を淡い紫で無数に彩るのはギボウシの花です。
列になった花たちは、下から順番に咲き始め
ひとつひとつの花は一日で終わってしまいます。
ギボウシの若葉は食用になり、「うるい」という名前で親しまれています。
また、様々に品種改良が為され、観賞用としてガーデニングもされています。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
満開だったエゴノキは、たくさんの実を風に揺らせています。
可愛らしいこの実には、界面活性作用があるため
洗剤の代わりに使うことができます。
そのため、残念ながら食べることはできません。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明
日本でも一番大きなトンボ、オニヤンマ。
森の中を悠然と飛行しています。
オニヤンマは他の夏の昆虫と同じく、幼虫期間が長く
5年かけて水の中で成長を続けます。
初夏になると陸上で成虫となり、数ヶ月間の間に生殖し、
その生涯を終えます。
トンボたちは、ひと夏の出会いに全てをかけています。
森のコンシェルジュ
舘田 貴明